2019年に触れた音楽たち〜劇伴・BGM編 #1:TVアニメ 私に天使が舞い降りた!

2019年現在、オタク活動とそれにまつわる音楽コンテンツは切っても切り離せない関係にあります。アイドルコンテンツはオタク業界の一大コンテンツとして様々なプロジェクトが乱立し、数多の CD を出してライブが行われています。また、声優がアーティストデビューし、ごく稀に声優が作詞・作曲をするなど、音楽の絡むコンテンツはアニメ・ゲームコンテンツそのものから少し離れた場所でも展開されています。声優を追っかけてコンテンツには深く触れずにCDを買うオタクもいれば、アニメ楽曲をよく歌うアイドルを追っかけることになってしまったオタクもいるでしょう。また、中には作編曲クリエイター陣の熱狂的なファンのいわゆる「楽曲派オタク」たちもここ5年ぐらいで立場を確立し、オタクたちは各々のスタイルで限界化をして生活しています。

 

さてさて、このようにオタク活動の音楽といえば、アイドルコンテンツのアイドルたちが歌い踊る「アイドル楽曲」、アニメのOPやED、挿入歌などの「アニメ楽曲」、アニメとは切り離されたアーティストとして声優が歌う曲の「声優楽曲」の3つのジャンルがメジャーなものになるでしょう(もちろんこれらのジャンルは両立することのできる要素でもあります)。しかし、これ以外にオタクコンテンツを構成する音楽要素があります。それは、アニメ・ゲームにおける「劇伴・BGM」です。アニメや映画の劇中やゲームをプレイしているときに後ろで流れている劇伴とBGMですが、ここにも先述した音楽ジャンルと同様に深く掘り下げられる世界が広がっています。

前置きが長くなってもしょうがないので本題に入ります。これからいくつかの記事に分けて、今年僕が触れたコンテンツの「劇伴・BGM」の中から特によかったなと思うものを簡単な解説(?)付きで紹介していこうと思います。今後の記事を通じて少しでも今まで以上に劇伴・BGMの観点から作品を楽しめるようになっていただけると幸いです。

あと、注意ですが、「今年触れたコンテンツ」になるので、発表や放送、発売が2018年以前のものもいくらか混じる可能性があります。

 

それでは、この記事(劇伴・BGM編 #1)で紹介するコンテンツはこちらです。

 

TVアニメ「私に天使が舞い降りた!」(2019年1~3月、劇伴:伊賀拓郎

2019年の幕開けを飾ったアニメ「私に天使が舞い降りた!」(以下、わたてん)です。椋木ななつ先生がコミック百合姫にて連載をしている漫画が原作のアニメで、主人公のオタク女子大生・星野みやこが妹・星野ひなたや、ひなたの友達の女子小学生たち(と危険な女子大生)とわちゃわちゃする風景を描いた作品です。基本は日常系コメディの雰囲気で展開されていくのですが、本質はそこにはなく、女の子と女の子同士のときめきだとかそういった感情がこの作品の本質になります(コミック百合姫なので当然ですが)。観たことのある人は、気ままな天使たちの可愛いOPと、オタクたちがみんなハッピー・ハッピー・フレンズになってしまうEDはもちろん、最終話でのミュージカルも印象に残っているかと思います。そんなアニメわたてんの劇伴およびミュージカルの挿入歌は「TVアニメ「私に天使が舞い降りた!」サウンドコレクション」に収録されています。

https://www.jvcmusic.co.jp/flyingdog/-/Discography/A025425/VTCL-60494.html

(フライングドッグ公式でストリーミング再生できます。劇伴オタクに優しい!!!!)


劇伴を担当しているのは伊賀拓郎氏です。伊賀拓郎劇伴の代表的な作品として「魔法少女育成計画」や「月がきれい」などがあります。そのような作品の印象が強かったので、放送前まではコメディ色の強い伊賀拓郎劇伴がどのようなものになるのかとてもワクワクしていました。

 (これは最終回放送後に召されるオタク)

サイキョーにカワイイ

わたてん劇伴は本当に名曲揃いなのですが、僕がその中で特に好きな曲は「サイキョーにカワイイ」です。

この曲は(もちろん公式に名言はされていませんが)ひなたの友達(友達?)の姫坂乃愛のテーマ曲にあたります。物語の序盤も序盤に転校生として登場する乃愛は、みやこの秘密であるコスプレ趣味を偶然知ったことを利用して、みやこに対してからかうように接して物語のわちゃわちゃ感を加速させていきます。また、親に可愛がられて育った結果、自分のことを世界一カワイイ存在だと信じており、友達からの包み隠さない評価にしばしば絶望するのも乃愛のカワイイところです。そんな乃愛ですが、とある出来事をきっかけにひなたのことを好きになり、ひなたの無自覚なイケメン言動に振り回される乙女であることも忘れてはいけません。ひょっとしたらこの作品で母親組を除いたら一番オトナな恋愛感情を抱いてるんではなかろうか……。

さて、曲の解説に移ります。この曲はハーフでの乃愛らしい優雅な(?)3拍子・ワルツ調の曲です。

0:00~ リコーダーとピアノによるイントロから始まります。CV.鬼頭明里のキャラにはリコーダーが似合う。

0:08~ バイオリンとリコーダー、ピアノによる1つ目のテーマが展開されます。このテーマではお転婆でお調子者な乃愛の可愛らしいところが描かれています。バイオリンの弾き方がすんごいお調子者感があって、乃愛の「でっしょー!」が聴こえてきそうです。

0:48~ ここなんですわ。姫坂乃愛という人物の輪郭がここでバチバチに強調される。鉄琴を交えて2つ目のテーマに入りながら乃愛の乙女な部分が前面に押し出されるんですよね。恋に落ちちゃった乃愛、ときめいている乃愛がそこにはいます。

1:02~ そんな乙女な乃愛ですが、終始乙女なわけがなく、ご機嫌なバイオリンが帰ってきて、「そういうところがカワイイんだぞ、乃愛」という気持ちになります。

1:18~ ここで1つ目のテーマの後半に戻ってきます。1度目ではバイオリンとリコーダーが軽やかに主旋律を支えていたのですが、この2度目ではバイオリンの重音がやや重厚に登っていきます。ここはひなたへの気持ちからひなたとの接し方に乃愛が悩でいる様子が表現されているのではないでしょうか。好きな人との関係で思い悩む女子小学生、いいですね。

1:26~ しかしそんなシーンもすぐに終わり、いつものアホカワイイ乃愛が帰ってきます。もう一度「そういうところがカワイイんだぞ、乃愛」という気持ちになったままこの曲は終わりです。

曲全体としては、カワイイ/乙女/カワイイ/乙女/カワイイという構造によって、姫坂乃愛の様々な側面とそれらのギャップを一曲で表現した名曲です。「姫坂乃愛ってどんな子?」って聞かれたらこの曲を聴かせればいいわけですね。 

ミュージカル

他にも名曲が揃う劇伴ですが、やはりこの作品では最終回のミュージカルにも触れなければならないでしょう。最終回の冒頭から始まり15分30秒にわたるミュージカルで、カテゴリとしてはボーカルありのアニメ楽曲なので本来は劇伴編で語らないものになると思うのですが、殊わたてんミュージカルに関してはそういうわけにもいかない楽曲群に仕上がっています。

 

1. 天使の眼差し Prologue

この曲はミュージカルの最初を飾る曲で、現実世界からミュージカルの世界へ誘うものとして効いています。この曲(および最後の曲「天使の眼差し Epilogue」)は劇伴アレンジではなく、このミュージカルのオリジナル曲になります。これまでのわたてんの世界観とは少し離れた厳かな雰囲気を出すことで、これからいつもと違う世界が展開されるぞ、といった緊張感が生み出されるんですね。また、声の重なり方が小学生のレベルを軽く超えていて、クラスの先生は学校の先生をやっている場合じゃないのでは?と思えてきます。

2. 私を呼ぶ声

新たに生まれた天使・アネモネ(役:白咲花)が「心を叫びたがっているんだ。」を彷彿とさせる登場をして舞台へ登り、映像が完全に空想世界のものになります。ここで大事なのは、この曲は花のテーマ曲「苦労して手に入れたお菓子」(および他アレンジ劇伴)のモチーフを用いているところです。急に出てきてびっくりしたミュージカル要素ですが、11話までで聴き馴染んできた劇伴のモチーフを用いることで、これまでの話とミュージカル世界の接続をより強固なものにしています。

3. ようこそ天使の国へ

この曲はお分かりの通り、この作品のメインテーマ曲である「私に天使が舞い降りた! I」「私に天使が舞い降りた! II」(および他アレンジ劇伴)のアレンジ曲になっています。「私を呼ぶ声」以上にガッツリと原曲を引用する形になっており、ミュージカル上では天使の国での生活と天使の仕事を表現する際に用いられています。ともに作品(わたてんそのものと劇中劇)の世界観を象徴する曲の役割を担っているんですね。

4. 恋するお菓子屋さん

リアタイ時の僕「……!!!……ゥゥウッ!;;」

「サイキョーにカワイイ」のアレンジ曲です。アニメリアタイ時はここで思わず嗚咽を漏らしながら泣いてしまいました。お菓子屋さんを営む町娘デイジー(役:ひなた)とカルミア(役:乃愛)が楽しそうに暮らしている中、デイジーが素敵な出会いを夢見る様子が描かれています。最後のデイジーのブレスから入る「弾む心感じたいの」がうますぎて、クラスの先生は学校の先生をやっている場合じゃないのでは?と思えてきます。

5. あの子に会いたい

デイジーを見てから愛を届ける天使が人に愛を抱くものなのかと悩むアネモネと、天使の綺麗な羽を拾ってアネモネとの出会いを夢見るデイジーが、互いに会って気持ちを確かめたい気持ちが描かれています。この曲はわたてん全体のテーマ曲の1つである「爽やかなる決意」のフレーズを並べ替えて引用したアレンジ曲です。この曲が終わってからアネモネがデイジーにしか見えないことがわかる場面になるなど、デイジーアネモネは人間と天使の間の絶望的な壁を突きつけられてしまいます。

6. 決意

人間として生きることを決意したアネモネがデイジーの元へと自分の足で歩いていくシーンの曲です。この曲は「私を呼ぶ声」以上にしっかりと「苦労して手に入れたお菓子」を引用してアレンジした曲になっています。演じているキャラとアレンジ元のテーマ曲を合わせることでスポットライトがより強調されるのが憎いです。

7. 受け継ぐ心

アネモネが会うことができたのはデイジーではなく、デイジーの孫・マリー(役:乃愛(女神カルム役も含め3役目))でした。その上で、デイジーの死を告げられるものの、マリーが幼少期にデイジーからアネモネの話を効いていたことと、当時から受け継がれてきたマフィンがあることを知ります。この曲は、アネモネがデイジーと共にこのお菓子を受け継ごうと決意し、その決意を全うするまでを描くシーンで流れる曲になります。この曲も「苦労して手に入れたお菓子」をベースとした曲になっており、この物語の主役は花が演じるアネモネだということが改めて強調されています。ところで、どうして松本は当たり前のようにミュージカルに出演しているのでしょうか?

8. 天使の眼差し Epilogue

出演者が全員で並び、終幕とともに現実世界に引き戻されます。脚本・音楽と演技指導のすべてが小学生の学芸会のクオリティーではなく、クラスの先生は学校の先生をやっている場合じゃないのでは?と思えてきます。

 

これまで見てきたように、わたてんミュージカルの音楽はキャラたちの日常との接続を大切に扱いながら作り上げられたもので、アニメわたてんの集大成として存在するのです。尺と金を使ってこれだけのコンテンツを作り上げようと企画した人および製作に関わった全ての人間に感謝しきれません。

 

以上、つらつらと書いてきましたが、わたてん劇伴はキャラテーマ曲とそのアレンジ、場面につける曲それぞれの機能がはっきりしていると個人的には思っています。そのため、各劇伴がどのテーマをアレンジしている(アレンジされている)かという関係を見出したり、それぞれの曲がどの場面で使われているかを堪能したりして、劇伴の視点からもう一度アニメの演出を見直すアニメ楽しみ方の入門編として非常に良い作品になっているでしょう。まあそんな楽しみ方をする人はいないと思いますが。

 

次回も劇伴について書いていきます。おそらく対象作品は「TVアニメ 八月のシンデレラナイン」になるかと思います。できれば年内に劇伴・BGM編は終わらせたいですが……。また次回